就職ナビの珍しい効果
メカニズムを、日本的なシステムとその下での個人の行動に焦点を当てて分析し、終身雇用制に内在する問題点を論じてみたい。
右のような不祥事のことを聞けば、その発生を抑止する力が内部に存在しなかったのかという疑問を持つのが正常であろう。
最高幹部を補佐する者や同僚は、なぜ反対意見や適切な忠告をしなかったのかという疑問が何人かによって出された。
一部の人々は組織の共同体化に問題があると指摘するかもしれない。
機能集団であるべき企業組織や公的機関が家族や村落共同体のように変形し、組織の成員の利益の承を追求し、一丸となって仲間内を庇い合う現象に問題があると。
本章では、このような集団主義のために不祥事の抑止が妨げられたという考え方は皮相的・不正確であることを論じたい。
つまり、共同体化と一言で表現できないメカニズムが組織のなかで作用することを指摘してみたい。
実際ほとんどの組織には、少数ではあっても、不正・反社会的行為に反対する成員がいる(内心では多くの成員が反対しているかもしれない)。
終身雇用制の下では、そのような意見を抑圧して不正を生承出す道具や装置をつくりだすことが容易で、(上層管理者などによって)利用される。
これと同じことは、若干異なった言葉で表現することができる。
ここ数年の間、日本の組織の閉塞感が問題になっている。
もし日本の組織が厳密な意味で集団主義的であって、すべての成員の利益を考慮するように機能していれば、閉塞感は問題となるはずがない。
問題となるということは、今日の組織が集団主義的に機能していないことを意味する。
閉塞感は、成員が望ましいと思うように組織が運営されていないときか、あるいは組織に自由が存在しないときに生じる。
今日の日本の組織のなかでは日本国憲法(基本的人権)が機能しないとまでいわれている。
日本の組織は、サリン事件を起こしたグループと大同小異であるともいわれている。
なぜこうなるのであろうか。
そのメカニズムを検討しよう。
すでに論じたように、終身雇用制はその制度の下にある人間関係を変える。
組織内の人間関係を緊密なものにするため、情報の伝達も組織の成員間で頻繁に行なわれるようになる。
協力を促進し組織の生産性を高めることを今まで論じてきた。
ながら、悪用することもできる。
火薬は土木建設に便利であるが、殺識にも使うことができる。
終身雇用制も同様な両面を持つ。
非常に単純化した形式的な例を考えてみたい。
終身雇用制を採用している企業のなかに、3人の労働者A、B、Cからなる小組織があると仮定する。
企業からその組織に毎日6単位の材料が支給され、それを使って生産が行なわれるとしよう。
材料一単位から2個の生産物が生産できる。
各労働者の報酬は生産物の量に比例して支払われる。
生産物一個からの報酬は1万円である。
材料の配分方法は労働者3人で自由に決めることができると仮定する。
この例は、自由裁量分析の方法は、まず問題を非常に単純化して、右で触れた道具・装置が終身雇用制の下でどのように機能するかを分析する。
その道具・装置が生み出すさまざまな負の効果を明らかにする。
そうすることによって、今まで共同体化という暖昧な概念で論じられてきた問題を、個人の動機と問題発生のメカニズムという側面に重点をおいて分析することができるようになる。
にまつわる問題を浮き彫りにするために、現実に頻繁に起こりうる問題を極度に抽象化・単純化して(すなわち自由裁量以外の側面は無視して)表現したものである。
ここで材料の配分方法を決めることは、何らかの規則を決める、あるいは何らかの共同意思決定を行なうことを比職的に表していると考えてもよい。
この材料の配分問題に直面した3人はどのような決定をするであろうか。
ありそうな1つの決定は、支給された6単位の材料を3等分して、各自が2単位受け取るというものである。
そうすれば各自が4個の生産物を生産して4万円の報酬を得ることになる。
ながら、ほかの決定がなされることを排除することはできない。
たとえば、材料の配分を特定の案を基にして多数決で決めようという提案がなされるかもしれない。
現実を抽象するために、Aの身長は180センチメートル、BとCの身長はそれぞれ160センチであると仮定する。
配分方法を決定する前にBとCは密かに結託し(話合い)、「身長180センチの者には材料の配分をゼロとし、160センチの者には各自3単位配分する」という提案をし、多数決で決めることに合意するかもしれない。
この提案は図3‐1の「場合2」にあたる。
もしこのような提案がなされ採決されれば、BとCは先の場合よりは大きな6万円の報酬を平等に得ることができる。
したがって、BとCはこのような結託をする強い誘因を持つ。
Aがどれほど理を通して反論しても、多数決だからと一蹴されるであろう。
この例では、3人の間でどのように材料を配分しても組織の生産量は同じである。
したがって効率性の観点からは、どのように配分されようとも問題は生じない。
この仮定は、話をわかりやすくするために導入されたにすぎない。
経済学で通常なされているように、たとえば一労働者に配分された第1番目の単位の材料からは3個の生産物、第2番目の単位からは2個の生産物、第3番目の単位からは1個の生産物が生産されると仮定してみよう(限界生産物逓減の仮定と呼ばれるが、一定時間内に多量の材料を扱うと不良品が多く発生するなどと仮定しなおしてもよい)。
すると、「場合2」のような配分方法は不公正であるばかりでなく、不効率でもある(ただしBとCにとって「場合2」は依然として有利である)。
終身雇用制の人間関係緊密化効果や情報伝達促進効果は、「場合2」のような結託を容易にする。
しかもこの「協力」行動には、逸脱して一時的に高い報酬を得る誘因がないので、結託が長期間持続する可能性が非常に高い。
もちろんAもBまたはCと結託すれば、「場合2」と同様な結果が生ずる。
もし3人とも2人からなる結託を試みると結託はうまく結ばれず、結局「場合1」の状態に落ち着くことになろう。
組織を構成する個人は同じような人間ばかりではない。
多くの組織のなかには、結託行動を非倫理的と考える個人も必ずいる。
(そういう個人が多いのが正常であろう。
)またこの例のような差別的行動を嫌う個人もいる。
組織の成員各人が結託者を探して見苦しく紛糾することを好まない個人もいるであろう。
結託と多数決が実行されると、そのような信条・価値観を持った個人が、Aのような排除対象者あるいは格好の鴨となり、不利益を被ることになる。
次のような実話がある。
X案とY案のいずれを実行すべきかを決める重要な会議が、A、B、C、D、Eの五人の間で開かれた。
その会議でAとBがX案を支持する意見、CとDがY案を支持する意見を支持する者が多数なのでY案を採用することにする」と。
司会者はなぜこのような発言をしたのであろうか。
理由は簡単である。
この会議を開く前に、C、D、Eの3人がY案を支持するよう密かに打合せをしてきたのである。
司会者の頭のなかにあったため、四人が意見を述べた段階で、てっきり全員の意見表明が済んだと思い込んで、Y案を支持する者が多数であると発言してしまったのである。
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